児いじりは得意じゃろう。立ち合って見さッせい」
卑《いや》しくどっとさざめき嘲けった声と共に、にったり笑いながら現れたのは杉山と言われた大兵《だいひょう》の門弟でした。得物はそのタンポ槍、未熟者の習い通り、すでに早く焦って突き出そうとしたのを、
「慌て召さるな」
静かに制して京弥殊のほかに落ちついているのです。
「手前の嗜《たしな》みましたは揚心流小太刀でござる。そこの御仁、鉄扇をお持ちのようじゃ。暫時お借り申すぞ。――では、おいで召されよ。いざッ」
さッと身を引いて六寸八分南蛮鉄の只一本に、九尺柄タンポ槍の敵の得物をぴたりと片手正眼に受けとめたあざやかさ! ――双頬《そうきょう》、この時愈々ほのぼのと美しく紅《べに》を散らして、匂やかな風情《ふぜい》の四肢五体、凛然《りんぜん》として今や香気を放ち、紫紺絖小姓袴《しこんぬめこしょうばかま》に大振袖の香るあたり、厳寒真冬の霜の朝に咲き匂う白梅のりりしさも、遠くこれには及ばない程のすばらしさでした。しかも、構え取ったと見るやたった一合、名もなき門弟なぞ大体物の数ではないのです。
「胴なり一本ッ。お次はどなたじゃ」
爽《さわ》やかな京弥の声が飛んだとき、すでに対手はタンポ槍をにぎりしめたまま、急所の脾腹《ひばら》に当て身の一撃を見舞われて、ドタリ地ひびき立てながらそこに悶絶《もんぜつ》したあとでした。
「稚児の剣法、味をやるなッ。よしッ。俺が行くッ」
怒って入れ替りながら挑みかかったのは、先程取次に出て来た名もない門人でした。
「ちと荒ッぽいぞッ。どうじゃッ。小わっぱ、これでもかッ」
力まかせに繰り出して来たのを、軽く払って同じ脾腹にダッと一撃!
「いかがでござる。お次はどなたじゃ」
涼しい声で言いながら、莞爾《かんじ》として三人目の稽古台を促しました。
「いい男振りだ。おどろきましたね」
武者窓の外からそれを見眺めて、悉く舌を巻きながら感に絶えたように主水之介に囁いたのは、峠なしの権次です。
「あれ程お出来とは存じませんでしたよ。まるで赤児の手をねじるようなものじゃござんせんか。いい男振りだ。実にいい男前だね。前髪がふっさり揺れて、ぞッと身のうちが熱くなるようですよ」
「ウフフ。そちも惚れたか」
「娘があったら、無理矢理お小間使いにでも差しあげてえ位ですよ」
「ところがもう先約ずみで喃。お気の毒じゃが妹
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