にヒュウヒュウと藩士の身辺におそいかかりました。不意を打たれて紊《みだ》れ立つともなく足並みが紊れ立ったその隙に乗じながら、主水之介はわが意を得たりとばかりに、莞爾《かんじ》としながら女共共一散走り!
角を曲ると同時に、なるほど目を射ぬいたものは、そこの千種屋の前一帯に群がりたかる捕り方の大群でした。
街は暗い。
道も暗い。
いつしかしっとりと秋の宵が迫って、行く手は彼《か》は誰《た》れ時の夕闇でしたが、しかしその宵闇の中にたばしる剣光を縫いながら、必死とあの宿の若者の力戦奮闘している姿が見えました。――ダッと走り寄って、捕り手の小者達のうしろに颯爽として立ちはだかると、叫んだ声のりりしさ爽やかさ、退屈男の面目、今やまさに躍如たるものがありました。
「宿の若者! 助勢致してつかわすぞッ。――木ッ葉役人、下りませい! 下りませい! 直参旗本早乙女主水之介が将軍家のお手足たる身分柄を以て助勢に参ったのじゃ。わが手は即ち公儀のおん手、要らざる妨げ致すと、五十四郡が五郡四郡に減って行こうぞッ。道あけい!」
言葉の威嚇もすばらしかったが、胆《たん》の冴え、あの眉間傷の圧倒的な威嚇が物を
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