血です。
「ほほう。鉄扇をうけた位で、生血が垂れているとは少し奇怪じゃな」
勃然として大きな不審が湧き上がりましたので、うろたえ騒いでいる人々を押し分けると、構わずにずいと死骸の傍らへ近よりました。
と知って、町方役人共が、要らぬおせっかいとばかりに鋭く咎めました。
「用もない者が、誰じゃ誰じゃ! 行けッ。行けッ。あちらへ行かぬかッ」
見ただけでも分りそうなものなのに、悉く逆上しきっているのか、二度も三度も横柄《おうへい》に役人風を吹かしましたので、仕方なくあの傷痕を静かにふりむけると、微笑しながら言いました。
「わしじゃ、分らぬか」
「おッ。早乙女の御殿様でござりまするな。この者、御前の御身寄りでござりますか」
「身寄りでなくば、のぞいてはわるいか」
「と言うわけではござりませぬが、お役柄違いの方々が、御酔狂にお手出しなさいましても無駄かと存じますゆえ、御注意申しあげただけにござります」
素人《しろうと》が手出しするな、と言わぬばかりな冷笑を浴びせかけましたので、退屈男の一|喝《かつ》が下ったのは勿論の事です。
「控えろ。笑止がましい大言を申しおるが、その方共はあれなる鎧に生
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