乗りつけるだろうと思われたのに、しかし、捜し捜し訪れていったところは、意外なことにも音蔵の住まいでした。
人手にかかってふた月あまり、――存生中は、三番組|鳶頭《とびがしら》として世間からも立てられ、はぶりもよかったにしても、死んでしまってはそういつまでも同じはぶりがつづくはずはない。と思いながらはいっていってみると、こぢんまりした住まいの表付きから中のぐあい、不思議なほどになにもかもゆたかに光っているのです。
妻女が三つぐらいの子を抱いているのでした。
その妻女にも、少々不思議が見えるのです。殺された音蔵は四十五という働きざかりであったのに、妻女はおおかた二十も違うほどの年下で、しかも色つやのつやつやしたあんばい、身だしなみのしゃんとしたぐあい、化粧こそはしていないが、着ているものから、肉づきのみずみずしているあたり、夫を失った女のさびしさ、やつれ、落魄《らくはく》、といったようなところはみじんも見えない若さでした。
そのうえに、気になるものが長々と手まくらをして、妻女の腰のあたりをかぐようなかっこうをしながら寝そべっているのです。年は三十三、四、伊達《だて》に伸ばしたらしい
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