かわしたところ、きりっと体が締まったところ、おいたはおよしなさいませとおちついたところ、やっとう剣法、竹刀《しない》のけいこでたたきあげたにしても、まず切り紙以上、免許ちけえ腕まえだ。女に剣術使いはあるめえと思い込んでかかったのが目ちげえさ。あの体のこなしなら、袈裟《けさ》がけ、一刀切り、男一匹ぐれえを仕止めるにぞうさはねえ。またひとてがらちょうだいするんだ。早くしたくしな」
「冗談じゃねえ。それなら、なぜさっき横車を押さなかったんですかよ。万兵衛のだんなが、ご意見はいかがじゃ、ご異論はござらぬか、と二度も三度もバカ念を押したんだ。あるならあるで、はい、先生、ございますと、活発に手をあげりゃよかったじゃねえですか」
「犬の顔にだって裏表があるんだ。物を考えつくときにだって、あともありゃさきもあるよ。初めっから気がついていりゃ、ほっちゃおかねえや。今ひょいと思いついたんで、急がしているんだ。とっとと駕籠《かご》を呼んできな」
「いいえ、だんな、お黙り! なるほど、犬の顔にも裏表があるかもしれねえがね、よしんばお駒が免許皆伝の剣術使いであったにしても、包丁はドス、そのドスが血によごれて、死
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