だにうっすらと残っているのです。
「かくのとおりじゃ。残念ながら証拠固めがたたぬとすれば、無罪追放のほかはない。諸公がたのご判断はいかがでござる」
「…………」
「ご意見はいかがじゃ!」
「…………」
「どなたもご異論ござりませぬか!」
「…………」
「ありませぬな。――では、川西万兵衛、公儀のお名によってさばきつかまつる。やまがらお駒、ありがたく心得ろよ。長らくうきめに会わせてふびんであった。上の疑いは晴れたぞッ。立ちませい! 帰っても苦しゅうない、宿もとへさがりませい!」
森厳、神のごとき声でした。いっせいにざわめきのあがった中を、さぞやうち喜んで飛んでもかえるだろうと思われたのに、しかし当のお駒は、力も張りも、精も根も、喜ぶその気力さえも尽き果てたものか、顔いろ一つ変えず、にこりともせずに、よろめきよろめき立ちあがると、いかにも力なげにがっくりとうなだれて、引く足も重そうに、とぼとぼと出ていきました。
じっとそれを見ていたのが右門です。同役残らずがもう席を立ってしまったのに、ぽつねんとただひとり吟味席の片すみに居残って、あごをさすりさすり見送っていたが、なに思ったか、とつぜん
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