早く逃げい」
「参ります! 参ります……! では、ごきげんよう……」
「まてッ。だいじな品を忘れてはならぬ。置き去りにしたら、お兄君がしかりましょう。お位牌を持っていけ」
「ほんにそうでござりました。抱かせていただきまする。――おあにいさま、霊あらばご覧なさりませよ。お聞きあそばしませよ。では、では必ず捜して、必ず討って、必ずかえってまいりまする。くれぐれもごきげんよろしゅう……」
しっかと兄の位牌をその乳ぶさの上に抱いて、あわれに暗い夜ふけの町へ、ふりかえり、ふりかえり、お駒の姿は遠のきました。その姿の行くえを、影のあとを追うように、飼いならしていたやまがらが、ばたばたと悲しげに羽ばたきをつづけて、あわれにも悲しい声をあげながら、ちーちーと鳴きたてました。
あちらへまごまご、こちらへまごまごしながら、伝六が泣きなき鳥の影のあとを追っているのです。
「めそめそ泣いて、なにをやっているんだ」
「鳥がかわいそうです。せめてあっしもなにか功徳をと思って、追いかけているんですよ。――来い。来い。このおじさんだって、大きになさけはあるんだ。帰るまで飼ってあげるよ。おっかねえことはねえ。早く来
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