ぞは、それ一つなのです。名人のさえた声が、とつぜん、えぐるように襲いました。
「憎いか! 三之助!」
「は……」
「千萩は憎いかときいておるのじゃ」
「こ、恋しゅうござります。いいえ、うらめしゅうござります。こんなに思うておるのに、人の心を知らない千萩が、ただただうらめしゅうござります……いいえ! いいえ! 千萩よりも父が憎い! 親が憎い! 実の子を捨てても他人の子をかばうような、父が、親が、もっともっとうらめしゅうござります……」
「そうか! 親が憎いか! 父がうらめしいか! では、おまえだな!」
 その恨めしさのあまりにやったいたずらにちがいないのです。名人の声が刺すように三之助の胸をつきえぐりました。
「隠しても目は光っているぞ! おまえがあんないたずらしたんだろう」
「気、気味のわるい。不意になんでござります! あんないたずらとは、なんのことでござります」
「しらっばくれるな! 父が憎い、親がうらめしいと、今その口でいったはずだ。他人の子をかばって自分を追ん出した腹いせに、あんないたずらをしたんだろう!」
「な、な、なんのことでござります! いっこうてまえにはわかりませぬが、何
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