です」
「そ、それも知りませぬ。ほかには何も存じませんゆえ、もう、もうごかんべんくださいまし……」
 言い捨てると、娘は逃げるように駆け去りました。
 聞き捨てならないうわさでした。
 名人の目が底深く微笑して、きらりと光りました。
「べらぼうめ、くせえとにらんだらあの青娘、案の定これだ、夜ふけにはまだ一刻《いっとき》近くはあろう。おいらがおじきじきに立ちん坊しちゃもったいねえや。わら人形でも見つけようぜ。ついてきなよ」
 ずんずん通りを塗町《ぬしちょう》へ 出て、土手に沿いながら歩いていると、辻占《つじうら》ア、辻占ア、というわびしい声といっしょに、土手の切れめから、ぽっかり白いあかりが浮きあがりました。
「子どもだな。ちっとかわいそうだが、張り番させるにゃかえっていいかもしれねえ。――大将大将」
 目も早いが、思いつくのも早いのです。手をあげてさし招きながら呼びよせると、ちゃりちゃりと小銭をたっぷり握らせて言いつけました。
「辻占《つじうら》はみんなおじさんが買ってやるからな。そのかわり、おまえのからだを貸しておくれ。もう少したったら、あそこのお医者のうちの内玄関か裏のほうから、女
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