です」
「そ、それも知りませぬ。ほかには何も存じませんゆえ、もう、もうごかんべんくださいまし……」
言い捨てると、娘は逃げるように駆け去りました。
聞き捨てならないうわさでした。
名人の目が底深く微笑して、きらりと光りました。
「べらぼうめ、くせえとにらんだらあの青娘、案の定これだ、夜ふけにはまだ一刻《いっとき》近くはあろう。おいらがおじきじきに立ちん坊しちゃもったいねえや。わら人形でも見つけようぜ。ついてきなよ」
ずんずん通りを塗町《ぬしちょう》へ 出て、土手に沿いながら歩いていると、辻占《つじうら》ア、辻占ア、というわびしい声といっしょに、土手の切れめから、ぽっかり白いあかりが浮きあがりました。
「子どもだな。ちっとかわいそうだが、張り番させるにゃかえっていいかもしれねえ。――大将大将」
目も早いが、思いつくのも早いのです。手をあげてさし招きながら呼びよせると、ちゃりちゃりと小銭をたっぷり握らせて言いつけました。
「辻占《つじうら》はみんなおじさんが買ってやるからな。そのかわり、おまえのからだを貸しておくれ。もう少したったら、あそこのお医者のうちの内玄関か裏のほうから、女
前へ
次へ
全48ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング