ハ……まっかにおなりじゃな。首のそのもみじでよくわかりました。三庵どの、千萩どのは三之助どのがきらいではないそうじゃ。お早く駕籠《かご》の用意をさっしゃい。行くさきは松永町《まつながちょう》の正福寺」
声も出ないほどに三庵がうち喜んで、騒がしく乗り物の用意をさせながら迎えに出そうとしたのを、
「いや、待たっしゃい。乗せていくものがござる。夫婦和合にあのお櫃は禁物じゃ。寺へ届けたら、あの長虫の始末は和尚《おしょう》がねんごろにしてくださりましょうゆえ、三之助どのと引き換えに迎えておいで召されい。千萩どのもたんと人膚にあやかりなさいませよ……」
「えへへ……人膚たア、うめえことをいったね。ちくしょう。ようやく今になって音が出やがった」
「おそいや。おまえが鳴らなくて、いつになく静かでよかったよ。それにしても、おいらとおまえは出雲《いずも》の神さ。ざらざらしてちっと気味がわるいが、ほかになでる人膚はねえ、おまえの首でもなでてやらあ。こっちへかしなよ」
くすぐったそうに首をすぼめた伝六と肩を並べながら、爽々颯々《そうそうさつさつ》と吹く朝風の中へ急ぎました。
底本:「右門捕物帖(四)」春陽文庫、春陽堂書店
1982(昭和57)年9月15日新装第1刷発行
入力:tatsuki
校正:はやしだかずこ
2000年4月20日公開
2005年9月24日修正
青空文庫作成ファイル:
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