わたくしが書きしたためまして、あのふびんな死にざまをなさいましたおかたに、あなたさまのところへ、飛んでいっていただいたのでござります。さっそくにお出役くださいましたゆえ、もうだいじょうぶと心ひそかに喜んでおりましたら、依田様もいいようのない人非人でござります。秘密を知られてはならぬと、あの鐘楼の上から恐ろしい矢を射かけたのでござります。そればかりか、ふたりでしめし合わせて、このわたくしをこんなところへ、手ごめ同様に押しこめ、妻になれの、はだを許せのと、けがらわしいことばっかり、今まで責めさいなんでいたのでござります。わたくしには何から何までのご恩人、ただもううれしくて、あなたさまのお顔も見ることができませぬ。お察しくだされませ」
言うまも悲しみ喜び、いちどきにこみあげてきたとみえて、おこよはよろめきながら床の間へ近づくと、子持ちすずりの桐箱を抱きすくめるように取りあげて、おろおろと泣きつづけました。
「ちくしょうめッ。これで伝六様も早腰を抜かさずに済んだというもんだ。これからが忙しいんだ。野郎どもはなわにするんでしょうね」
「決まってらあ。ふたりとも並べてつないで引っ立てな!」
立
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