やがらあ。百万石おかかえ、依田流の弓術があきれるよ。おひざもと育ちの八丁堀衆は、わざがお違いあそばすんだ。大口の三郎、おめえも大口あいてかかってくるか!」
「うぬ! か、か、かからずにおくものかい!」
さるのように歯をむいて、祐筆頭大口三郎が抜いてかかろうとしたのを、手もない、ただのひとひねりです。
「ふざけるねえ。細筆一本でおまんまをかせぐ祐筆のやせ腕が、お江戸自慢のおいらの相手になれるけえ。おとなしくしておりな」
ぎゅうとさかねじにそのきき腕をねじあげると、ずばりと切りさげたような啖呵《たんか》があまくだりました。
「うすみっともねえまねをするにもほどがあらあ。そんなに目玉を白黒させずとも、うぬの小細工の黒い白いはもうついているんだ。痛い思いをしたくなけりゃ、すなおにすっぱりどろを吐きな」
「いいえ、あの、ありがとうございました。おかげさまで、危ういところをのがれました。その白い黒いは、このわたくしが申します」
おろおろと泣き喜びながら、まろび出るようにしていったのは、松坂甚吾の妻女おこよです。
「ただいま、このわたくしを前にすえておいて、自慢たらたらとおふたりで申されました
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