け回りました。そのあとから群集もうろうろと走りまわって、さながらにはちの巣をつついたような騒ぎでした。
しかし、むっつりの名人ひとりは、にやにやと笑っているのです。
「くやしいね。なにがおかしいんですかよ! 笑いごっちゃねえですよ! 矢が来たんだ。矢が! 大将のどから血あぶくを出しているんですよ!」
「もう死んだかい」
「なにをおちついているんですかよ! せっかくの手づるを玉なしにしちゃなるめえと思うからこそ、あわてているんじゃねえですか。のそのそしていりゃ死んでしまうんですよ!」
「ほほう。なるほど、もうあの世へ行きかけているな。しようがねえ、死なしておくさ」
じつに言いようもなくおちついているのです。のっそり近よると、騒ぐ色もなくじいっと目を光らして、その矢の方向を見しらべました。
左からではない。
右から来て刺さっているのです。左は加賀家の屋敷だが、その右は、道一つ隔てて、すぐに引祥寺のへいつづきでした。
へいを越して、方角をたどって、のびあがりながら寺の境内を見しらべると、ある、ある。距離はちょうど射ごろの十二、三間、上からねらって射掛けるにはかっこうの高い鐘楼が見え
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