はそっくりじゃねえか」
げえッ、というように青ざめて、やにわにしげ代と名のったその女中が、二枚の紙をわしづかみにしながら逃げ出そうとしたのを、
「神妙にしろい。おいらをだれだと思ってるんだ」
ぴたりと押えてすわらせると、たたみかけた啖呵《たんか》もまた急所をえぐりました。
「慈悲をかけねえっていうわけじゃねえ。出ようしだいによっては、いくらでも女にやさしくなるおいらなんだ。むっつりの右門がむだ石を打つかい。べらぼうめ。おまえのその手の墨はなんだ。そでの墨はなんだ。こいつめ、にせの書き置きを書きやがったなとにらんだればこそ、おまえの字を知りたくて、わざわざ一筆ものさしたんだ。似たりや似たり、うり二つというのはこいつのことだ。両方の字のそっくりなのが論より証拠だ。この書き置きもおまえが書いたんだろう。どうだ、違うか」
「そうでござりましたか。やっぱり、やっぱりそのためでござりましたか。不意に名をかけとおっしゃいましたゆえ、もしやわたしの字をお調べではあるまいかと、書きながらもひやひやしておりましたんですが、恐れ入りました。いかにもこの書き置きはにせものでござります。書き手もおっしゃるとおり、このわたくしに相違ござりませぬが――」
「ござりませぬが、なんだというんだ」
「わたくしがすき好んで書いたのではござりませぬ。人におどかされまして、書かねば殺すぞと人におどかされまして、いやいやながら書いたのでござります」
「へへえ、急に空もようが変わってきやがったね。うそじゃあるめえな」
「いまさらなんのうそ偽りを申しましょう。あのかたに殺されたらと、それがおそろしくて、お隠し申していたんでござりまするが、もうもうなにもかも白状いたします。奥さまが死出の旅路にお出かけなさったなぞとはまっかな偽り、その奥さまは人にさらわれたんでござります。さらっておいて、罪を隠すためにそのかたがわたくしをおどしつけ、このようなにせの書き置きを書かせたのでござります」
「だれだ、あの矢で殺された若侍か」
「いいえ、あのかたこそ、ほんとうにおかわいそうでござります。同役というだけでいろいろご心配なさいましたのに、あんなことになりまして、さぞやご無念でござりましょう。さらった人は、わたしをおどしつけた人は、大口三郎というおかたでござります」
「どこのやっこだ」
「もとは同じ溝口藩のご祐筆、うちのご主人
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