へいってきたというだけじゃあるめえ。そのめかし方は、まずうれしい待ち人でもあるといった寸法だ、今夜きっと会いましょうと口約束した待ち人がな。しかも、その待ち人は女だろう! 違うか! どうだ!」
「…………!」
「返事をしろッ、返事を! いちいちと、そうびっくりするにゃ当たらねえや。おまえらふぜいを責め落とすぐれえ、むっつり右門にゃ朝めしめえだ。安い油をてかてかとぬったぐあい、女に会えるからのおめかしに相違あるめえ。どうだ、違うか!」
「そ、そ、そうでござんす」
「その女がドスの頼み手、こいつをこっそり梅五郎さんに届けておくんなさいまし、さすればどんなことでもききます。あすの晩にでもと、色仕掛けに頼みこまれて、ついふらふらと、とんでもねえドスのお使い番をしたんだろう。女は年のころ十八、九、あいきょうたっぷり、こいつもにらんだ眼に狂いはねえつもりだが、違うか、どうだ」
「…………!」
「返事をしろッ、返事を! むっつり右門の責め手は理づめの責め手、知恵の責め手、こうとにらんだら抜け道のねえ責め手なんだ。年もかっきりずぼしをさしたに相違あるめえ。どうだ、青っぽ!」
「そ、そ、そのとおりでござります……」
「よし、わかった。もうそれで聞くにゃ及ばねえ。伝六、また駕籠だ。おめえひとりがよかろう。あの親子をしょっぴいてきな」
「親子!」
「今のあの鈴新親子を引いてこいというんだ。これだけの動かぬ証拠がありゃ、もう否やはいわせねえ。しかし、おめえは口軽男だ、うれしくなってぱんぱんまくしたてたらいけねえぜ。ちょっとそこまでと別口のおせじでもいってな、のがさねえように、うまく引いてきな」
「心得たり! ちきしょうめ。こういうことになりゃ、伝あにいのおしゃべりじょうずは板につくんだ。たちまち引いてくるから、お茶でも飲んでおいでなせえよ」
 忙しい男です。
 ぴゅうぴゅうと、うなりをたてて飛んでいく姿が見えました。
 遠いところではない。
 二杯とお茶を飲むひまのないまもなくでした。
 エへへ、という声がしたと思うといっしょに、その伝六がなにをべらべらやっているのか、しきりにさえずりながら、新助お竹の親子を手もなく引いてきたのです。
「さあ来たんだ。べらぼうめ! 神妙にしろ。得意のむっつり流で、ぱんぱんとやっておくんなせえまし!」
 突き出すように押してよこしたふたりの前へ近づくと、ぶき
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