背負ってきな」
どさりと投げ出すようにこかし込んだのを待ちうけて、舟は二丁艫をそろえながらギイギイとこぎだしました。
「女も女だね。こんな野郎にだまされたとなりゃ、くやしくならあ。――生き返るにゃまだはええや! ついでに、おれがもう一本十手の当て身をくらわしてやらあ。もう少し長くなってろい!」
伝六も今夜ばかりは気がたっているとみえるのです。
「つら見るのも、ふてえ野郎だ。それにしても、なんだって野郎め、船頭を五匹も絞めやがったんですかね。盗んで掛け直したところがわからねえんですよ」
「決まってるじゃねえか。金と女を両|天秤《てんびん》にかけて、こんなあくどい狂言をうったんだ。手先に使っておったあの五人の川船頭が、漏らしてならねえ秘密を漏らしそうになったんで、荒療治をやったのよ。掛け直したのは、残った船頭たちへの見せしめさ。もっと理詰めで考えるけいこをしろい」
「なるほどね、大きにそれにちげえねえや。久方ぶりに、だんなも荒療治をおやんなさいましたな」
「あたりめえだ」
吐き出すようにつぶやくと、毒手にかかった女たちをあわれむように、黙々と目をとじました。
底本:「右門捕物帖(四)」春陽文庫、春陽堂書店
1982(昭和57)年9月15日新装第1刷発行
入力:tatsuki
校正:kazuishi
2000年3月13日公開
2005年9月24日修正
青空文庫作成ファイル:
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