「ゆうべいたのは、ここにいるおまえら四人きりか」
「いいえ、六人でござりました」
「あとのふたりはどこへいった」
「あちらをもう一度おしらべなさいますようなら手をつけてはならぬと存じましたゆえ、首尾の松のほうを見張らしてござります」
「六人ともみな夜じゅう起きていたか」
「いいえ、一刻替わりに寝てもよいことになっておりますゆえ、三人ずつ入れ替わってかわるがわる起きていたのでござります」
「なくなったのは、いつごろじゃ」
「九ツそこそこでござりました」
「そのとき起きていたのは、だれだれじゃ」
「てまえと、この横のふたりでござります」
「しかと見ている前で紛失したか」
「そうでござります。三人ともこの目を六ツ光らしておりましたのに、ふいっと消えてなくなりましたゆえ、みなして大騒ぎになったのでござります」
「よう考えてみい。キリシタンバテレンの目くらましでもそううまくはいかぬぞ。何か不思議があったはずじゃが、その近くに怪しい者でもたずねてこなんだか」
「いいえ、怪しい者はおろか、不思議なことなぞなに一つござりませぬ。ゆうべのうちにこの自身番へ来たものは、あとにもさきにも女がたったひとりだけでござります」
「なに、女! いつごろじゃ!」
「死骸《しがい》のなくなるちょっとまえでござります」
「それみい! そういうたいせつな言い落としがあるゆえ、きいているのじゃ。女はどんなやつだ」
「いいえ、その女は何も怪しいものではござりませぬ。年のころは二十七、八でござりましょうか。お高祖頭巾《こそずきん》で顔をかくした品のよいお屋敷者らしい美人でござりましてな。この裏の大御番組の柳川様をたずねてきたが、気味のわるい男が四人ほどあとをつけていて離れぬゆえ、追っ払ってくれと駆けこんできたのでござります」
「どこからのぞいた。裏か、表か!」
「あの裏口からでござります。のぞいてみると、なるほど四、五人、路地の奥に怪しい影が見えましたゆえ、三人してちょっと追っ払ってやっただけでござります」
「よし、わかった。アハハ、しようのないやつらだのう。追っ払って帰ってきたら、死骸がとっくになくなっていたろうがな」
「そうでござります。ついさきほどまでちゃんとあったのに、もう見えませなんだゆえ、にわかに騒ぎだしたのでござります」
「あたりまえだ。いつまで死骸が残っているかよ。六つ目玉を光らしているま
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