きたは、やっぱり心中か」
「いいえ。野郎仏をひとり、橋下でいま拾ったんでね。急いで帰ってきたんですよ」
「ほほう、男をな。ききたいことがある、隠してはならんぞ。日の暮れあたりに、おまえら土左舟のうちで、死体を五つ運んだものがあるはずだが、どの舟だ」
「ああ、なるほど、そのことでござんすか。首尾の松の一件じゃござんせんかい」
「知っておるか!」
「あそこに妙な首つりが五人あったと聞いたんでね、はて変だなと思って、今も舟の上できょうでえと話し話し来たんですがね。日暮れがた、ちょっとおかしなことがあったんですよ。今夜からお上のお役舟は川下のほうをお回りなさることになったんでね。じゃ、あっしども特志の舟は手分けして川上を回ろうというんで、幡随院舟はずっと上の綾瀬川《あやせがわ》、加賀芳舟は東橋、わっちども但馬屋舟はこのあたりにしようとここで相談しておったら、変な男が、三、四人やって来てね、今そこで五人ひとかたまりの土左衛門を見つけた、功徳だからおれたちであげてやる、どれか一艘舟を貸せんかといったんで、加賀芳身内がなんの気なしに貸したんですよ。ところが、どこで拾ってどこへ始末したのか、仏ならこの小屋へ運んできそうなものなのに、まもなくから舟をまた返しに来たんでね。妙なことをしやがると思っていたら、首尾の松に五人、ぶらりとさがっていると聞いたんです。お尋ねはそれじゃござんせんかい」
「まさしくそれだ! どんな人相をしていたか覚えないか!」
「そいつがあいにく、怪しいやつらたア気がつかなんだものだからね、なに一つ見覚えがねえんですよ」
「風体はどうだ!」
「それもうっかりしていて気がつかなかったんですよ」
「せめて年ごろにでも覚えはないか」
「それさえさっぱり覚えがねえんです。なんしろ、月はまだあがらず、薄暗いところへもってきて、向こうははじめっからそのつもりだったか、顔を隠していやがったんでね。気のついたこたアなんにもねえですよ」
 名人の手は、知らぬまにあごをなではじめました。ぞうさなく開けかけたかと思った道は、突如として深い霧の中へ隠れてしまったのです。にらんだとおり、土左舟を借りに来たその者たちが、あの五人を運んだにちがいない。おそらく、はしごでもいっしょに積んでいって、あの枝にかけたことは疑いない。
 しかし、わかったことはただそれだけなのです。どこから死体を運んできた
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