ですよ。さあたいへんとばかり、だんなへあのとおり一筆したためてお迎いを出したはいいが、あんまりいばった口をきくもんじゃねえんです。何がおもしれえんだ、しろうとが見たとて生きかえるわけじゃねえ、どけどけ、番人はおれひとりでたくさんだとばかり、やじうまを追っ払って番をしてみたら、ちっとばかり了見が違ったんだ。なんしろ、五人もくくっていやがるんだからね。知らぬうちに手足がこまかく動きだしやがって、目はくらむ、肝は冷える、そのうちにしいんと気が遠くなっちまったんですよ」
「だれが、いつごろ見つけたんだい」
「ほんのいましがた、この下を通った船頭が見つけてね、それから騒ぎだしたというんだから、つったのも明るいうちじゃねえ、きっと日が暮れてからですよ」
「自身番の者には、もう手配したか」
「そんな度胸があるもんですかよ。なんしろ、仲間は死人なんだ。だんなの来ようがおそいんで、あっしゃ恨みましたよ」
「ことし、いくつになるんだ。しようがねえっちゃありゃしねえ。早くいって呼んできな」
「行くはいいが、あっしが行きゃだんなひとりになるんだ。あとはだいじょうぶですかい」
「おまえたアちがわあ!」
 駆けだそうとしたとき、騒ぎを聞きつけたとみえて、自身番の町役人たちが、ちょうちん、龕燈《がんどう》、とりどりにふりかざしながら、どやどやとはせつけました。
「参ったか! 右門じゃ。だれかはようあかりを貸せい」
 龕燈をうけとると、高くかざして枝先を照らしながら、じっとまずその位置を見しらべました。
 ところが、不思議です。くくっている枝は、幹からくねりと下回りに曲がって、川の上に二間近くも突き出た場所でした。首つりの名人ならいざしらず、普通の者ではとうていはい上っていかれるような枝でない。不思議に思って、幹から根もとを念のためにしらべると、やはり上っていったらしい足跡も形跡もないのです。
「ちっと変なにおいがしてきやがったな。あかりをもう二つ三つ寄せてみろ」
 集めて照らしたその灯《ひ》が死体へ届くと同時でした。
「よッ。目をあいているな!」
 はぜあがったようなおどろきの声が、名人の口から放たれました。五人ともに、死人はかっと目を見開いて、気味わるく虚空をにらんでいるのです。ばかりか、歯もむいているのです。舌も出しているのです。――他殺の証拠でした。自分でくくったものなら、十人が十人まで目
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