と月間、一日おきにこのお馬場へやって来て、朝のうちの半刻《はんとき》ずつ馬術を練るならわしなのです。
ちょうどこの日がまた、数寄屋橋側のけいこ日の半日なのでした。したがって、南町ご番所名代の伝六が来ないというはずはない。来ればまた、ものおじしないその伝六が、ぼんやりと指をくわえているはずもないのです。
「一|太刀《たち》、二|槍《やり》、三|鎖鎌《くさりがま》、四弓、五馬の六泳ぎといってね、総じて武芸というものは、何によらず、恥ずかしがっていると上達しねえものなんだ。えへ……だれも見ちゃいないね。このまにちょっと乗ってやるかな。え? だんな。あば敬の大将が来たら、ないしょで知らしておくんなさいよ。ほかの者に見られるぶんにゃかまわねえが、あいつに見られちゃ、これからさきおいらをバカにするからね」
「されないようにじょうずに乗ったらいいじゃないかよ」
「そうはいかねえんだ。おいらの馬術は、何流にもねえ流儀なんだからね。――ほらよ、くろ、くろ! おとなしくしているんだよ。名人が乗るんだから、ヒンヒンはねちゃいけねえぜ」
馬ぐらい乗り手を見分けるものはない。ましてや、乗り手が伝六とあっては
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