父の悪業ひたかくしに隠そうと、心染まぬながらとうとうこの飾り綿まで受け取らねばならぬようなはめになったのでござります。なれども、恋ばかりは……真実かけた恋ばかりは……」
「ほかにまえから契った男でもござったか!」
「あい。名はいいませぬ! たとい死ぬとも、あのかたさまのお名はいいませぬ! 同じお城仕えのさるかたさまときびしいご法度《はっと》の目をかすめ、契り誓ってまいりましたものを、いまさら中山さまのごときに身をまかするは、死ぬよりもつろうござりましたゆえ、いっそ、もう事のついでに――」
「よろしい。わかった。毒くらえばさらまでと、数馬に一服盛ったというのであろうが、しかしちと不審は女手一つで中山数馬の死体をあの濠《ほり》ぎわまで運んだことじゃ。名をいえぬその男にでも力を借りたか!」
「いいえ、結納つかわしたならば、式はまだあげずとも、もうわがもの同然じゃ、意に従えと口くどうお責めなさりますゆえ、では、あの牛ガ淵の土手のうえでお待ちくださりませ、心を決めてご返事いたしますると、巧みにさそい出し、お菓子に仕込んだ毒をそしらぬ顔で食べさせたのでござります。あとはおしらべがおつきでござります
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