んだ。草香流の味を知らねえのかい。あばれると、ききがいいぞ」
 ぎゅっとぞうさもなく押えたやつを伝六に渡しておいて、すばやく手、口、ともにすすぎ清めると、懐紙を口にくわえながら、白布を解きほどきました。
 同時に現われたのは、まさしく八束穂《やつかほ》のお槍です。
 宿役人のさしつけたあかりをうけて、飾り巻き柄に打ったる三つ葉葵《ばあおい》のご定紋が、ぴかりと金色に輝き渡りました。
 ハッとなって、居合わせた路傍の人の群れがいっせいに土下座、地にひれ伏しました。
「お関所役人つつしんで、ご奉持なさりませい。これなる不届き者行徳助宗は宿送り、届け先は江戸ご城内お濠方畑野蔵人、三宅平七ご両士じゃ」
 右門の声、さえざえとしてあたりを払ったことです。用意の軍鶏駕籠《とうまるかご》に投げ入れられて、愁然としながら、また道を江戸へ送られていく行徳助宗の姿を見送りつつ、そっとささやきました。
「助宗、娘の岩路はそちを無事に高野へ落とそうと、悲しい孝道たてて、毒をあおったぞ。罪は憎いが、心さま思えばふびんな最期じゃ。江戸へ行ったら、せめても娘へのたむけに諸事神妙にいたせよ」
 白々と夜が明けかかった……。



底本:「右門捕物帖(四)」春陽文庫、春陽堂書店
   1982(昭和57)年9月15日新装第1刷発行
入力:tatsuki
校正:はやしだかずこ
2000年2月12日公開
2005年9月23日修正
青空文庫作成ファイル:
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