うに作って、先頭に立った五分|月代《さかやき》こそ、体の構え、目の配り、ひときわ立ちまさっているところを見ると、たしかに当の黒岩清九郎にちがいない。しかも、あたりのけはいを見はばかるようにして、そのまま足早にお蘭の住み家の中へぞろぞろと姿を消しました。
 見ながめるや同時です。
「たいでえびをつったかな。まごまごすりゃ、今度こそ、おめえの首がそっぽへ向くかもしれねえから、小さくなって見物していなよ」
 言い捨てて、伝六をうしろに、ゆうぜんと引っ返していくと、ちょうどその出会いがしら。――気を失ったままでいるお蘭のからだを横抱きにして中から出てきた四人の者と、ぱったり面を合わせました。せつな! 莞爾《かんじ》とうち笑うと、すばらしい名|啖呵《たんか》が飛んでいったものです。
「忘れるねえ! これがお江戸八丁堀のむっつり右門の顔だッ。少しはぴりっとからしがきいたかッ」
「なにッ」
「よッ」
「はかったなッ」
「そうよ、知恵の小引き出しは百箱千箱、こうとにらんだ眼《がん》は狂い知らずだ。張った捕《と》り網にもこぼれはねえが、草香の当て身にもはずれがねえんだ。菜っ切り包丁抜いてくるかッ」
「ほざいたなッ。うぬにかぎつけられちゃめんどうと、おどしのくぎを一本刺しておいたが、こうなりゃなおめんどうだッ。二天流の奥義、見舞ってやるわッ」
 二本、三本、四本、いっせいに抜いて放って、さっと刃ぶすま固めながら小雨の表におどり出たのを、とどめの名啖呵です。
「笑わしやがらあ! これが折り紙つきの草香流だッ。お味はどんなもんかい」
 出たとならば、一陣、一風。二天流黒岩清九郎が赤岩清九郎になろうとも、右門秘蔵草香の当て身の前には歯も立たないのです。ばたり、ばたりと、一瞬の間に四人は雨どろの道にはいつくばりました。
「見ろいッ。弟子《でし》だか門人だか知らねえが、片棒かついだやつにゃ用はあるめえ。加賀大納言家じゃ清九郎一人に御用がおありだろうから、伝あにい、いつものとおりこれをなわにして自身番へしょっぴいてな、ご進物でござりますとすぐにお屋敷へ届けるよう、計らってきなよ。――おっと、待ったり。懐中にでもゆすりの種のかよわせ文《ぶみ》があるだろう。地獄へ行くには目の毒だ。功徳のためにいただこうよ」
 果然、ふところ深くに忍ばせていたのをすばやく抜きとっておくと、何も知らぬげに気を失っていたお
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