だ。――お山同心のかたがた! お聞きのとおりでござる。慈悲は東照宮おんみたまもお喜びなさるはず、お召し捕《と》りの八人のやくざ者たちは、百たたきのおしおきにでもしたうえ、放逐しておやりくだされい。――幸助ッ」
「へえ」
「人の色恋のおてつだいはあんまりぞっとしねえが、お蘭しごきのくふうがあだめかしくて気に入った。おいらが慈悲をかけてひと知恵貸してやるからな。そのかわり、今すぐ南町ご番所へ自訴にいって、しかじかかくかくでござりますと正直に申し立てろ。さすれば、しごきをとられたお嬢さんたちの名まえも居どころもわかるはず。わかったら、けちけちしちゃいけねえぜ。おわびのしるしにお菓子折りの一つずつも手みやげにして、とったしごきは返してやりな。いいかい、忘れるなよ」
「ありがとうござります。このとおり、このとおり、お礼のしようもござりませぬ」
「拝むなはええや。無事におったら、お蘭弁天さまでもたんと拝みなよ。伝あにい! 用意はいいのかい」
「いうにゃ及ぶでごぜえます! ちきしょう、雨が小降りになりやがった。散れ散れ花散れ駕籠《かご》飛ばせとくりゃがらあ。山下で用意をしておりますからね。二丁ですかい、一丁ですかい」
「おごってやらあ。二丁にしなよ」
「ちぇッ、話せるね。こんなきっぷのいいおだんなを、なんだってまた江戸の女の子がいつまでもひとりでおくんだろうな。ほれ手がなけりゃ、おらがほれてやらあ。待っているからね、ゆっくり急いでおいでなせえよ」
花のふぶきをひらひら浴びて、小降りの雨にしっぽりぬれて、花びら散り敷く道を山下めがけていっさん走りでした。
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しかし、そろえて待っていたその二丁の駕籠に乗ると同時です。けたたましく伝六が音をあげました。
「だんな、だんな、今ごろになって出りゃがった。変な野郎が、ちょこちょことつけだしましたぜ!」
「ほほう。案の定新芽が出たか。いずれはちゃちな野郎だろうが、念のために首実検しようかい」
おどろきもせず、たれのあわいからのぞいてみると、これが早い、――年のころは三十七、八、町人づくり。雨の中を長ぞうりはいて着流しのくせに、ちょこちょこと二十間ばかりのあとから、じつに足が早いのです。
「まず町飛脚という見当かな。黒幕はたしかに二本差しにちげえねえが、あんなやつまで手先に使って、上野へ来たことまでかぎつけて、この山下に張り
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