ぞ! 目もあるぞ! しかも、このおいらの目玉は、雨空、雪もよう、晴れ曇り、慈悲にもきくがにらみも江戸一ききがいいんだ。なんぞおめえ細工をしたろう。すっぱりいいな」
「いいえ、あの、あっしが、あっしが――」
「あっしがどうしたというのかい」
「あっしが蒸し焼きにしたんじゃねえんです。殺したんじゃねえんです」
「それをきいてるんじゃねえんだ。さっき仕事べやへへえっていったときに震えていたあんばい、今こうして逃げまわったあんばいからいっても、無傷じゃあるめえ。弥七郎が思い案じて自害しなくちゃならねえような種を、何かおめえがまいたろう! どうだ。ちがうか!」
「め、めっそうもござりませぬ。無、無実でござります! 無実のお疑いでござります。あっしゃ何もしたんじゃねえんです。ただ、二十日《はつか》の晩、弥七郎がいなくなったあの二十日の晩に――」
「二十日の晩にどうしたんだ」
「見たんです。ちらりと、ちらりとあれがあの窯《かま》の中にはいるところを見かけたような気がしましたんです。何をするだろうと思ったんですが、はっきり見たわけじゃなし、まさかと思っておったら――」
「思っておったら、どうしたんだ」
「その夜から明けがたにかけて臭かったんです。たしかに人の焼けるようなにおいがしたんです。だから、だから、かかり合いになっちゃなるまいと思って、前後の考えもなく逃げかくれしただけのことなんです」
「ほんとうか!」
「う、うそ偽りはござりませぬ。人の焼けるにおいがしましたんで、ひょっとしたらと思ってはいたんですが、のぞいてみるのもこわいし、よけいなことをしてまたつまらぬ疑いでもかかってはと、ひとりでびくびくしておりましたら、今のさきだんなさまが手もなくお見破りなすったんで、かかり合いになっちゃあと逃げだしただけのことなんです」
「まちがいないな!」
「ご、ござりませぬ」
「こちら向いてみろッ。向いて目をみせろッ」
こわごわふり向けたその目の色を、じいっと見すくめながら探ってみたが、濁りもない。乱れもない。いかさま、うそ偽りの色は少しも見えないのです。
「そうか! 狂ったか! 狂ったことのないおいらの眼《がん》が狂ったか! 用はない。いけッ」
吐き出すような、というよりもむしろそれは悲しげな嘆きの声でした。無理もない。天下第一の器量人、名宰相伊豆守ですらも舌を巻いて、あれは無比無双じゃ
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