ものとおりにな、自身番にいいつけて、この女の始末させなよ」
言いおくと同時に、何もかももう忘れ果てたもののごとく、夕風たった町の道を、すういすういと歩み去っていく名人に追いついて、用をすましながら駆けつけてきた伝六がいったことでした。
「ウッフフ。ね、だんな! 口はちょうほうなものですよ。あんまりはばったいことをおっしゃるもんじゃござんせんぜ。堅いばかりが能じゃねえとかなんとか大きにご説法なすったようだが、そういうだんなはどうです! 焦がれ死にするくれえに片思いの娘っ子たちが幾人いるかわからねえんだ。いいかげんにだんなもほっかりと蒸しかげんのいい人間にならねえと、七橙《ななだいだい》かなにかで祈られますぜ」
――知らぬ知らぬというように、名人の足の下でちゃらりちゃらりと雪駄《せった》の音が鳴りました。
底本:「右門捕物帖(三)」春陽文庫、春陽堂書店
1982(昭和57)年9月15日新装第1刷発行
入力:tatsuki
校正:kazuishi
1999年12月8日公開
2005年9月21日修正
青空文庫作成ファイル:
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