がら、あおむけざまに打ち倒れているのです。しかも、血はない! どこに一点血の吹いたところも、ぐさりとやられた跡もないのです。
「野郎め、つまらねえ死に方しやがったね。名まえも考えてつけるもんですよ。さかさねこの伝兵衛なんてつけやがったから、さかさにのめって死にやがったんだ。まさかに、てんかんじゃありますまいね。え? ちょっと! 縁側てんかんってのがあるかもしれませんぜ」
たちまちやかましく始めたのを、柳に風と聞き流しながら、ねこ伝の胸のあたりをじろりと見つめたそのせつな! すばらしいともなんともいいようのない眼のさえでした。
「まさに含み針だッ。ウフフ。よくみろよ。おめえのようなあわて者では、いわれるまでわかるめえが、ねらわれたところは心の臓だ。ぶつぶつと小さな穴が乳下にあいているところをみると、あのおっかねえ山住流の三角針が五、六本心の臓をお見舞い申したんだよ。七つ橙の頼み手が、名をしゃべられちゃなるめえと、口止めにこんなむごいまねをしたにちげえねんだ。こうなりゃ、もう先を急がなくちゃならねえんだから、がんがん鳴ると縁を切るぜ!」
ぴたりと一本おしゃべり太鼓の伝六にとどめのくぎをさしておくと、鋭く烱々《けいけい》とまなこを光らしながら、何か手がかりになるべき品はないかと、しきりにあちらこちら見調べていましたが、そのときはしなくも目に映ったのは、惨事のあった内庭に通ずる裏木戸のくいの根もとに、無言の秘密となぞを残しながら捨てられてあった一個の小さな赤い袋です。それもただの袋ではない。小楊枝《こようじ》でも入れてあったのではないかと思われるような、なまめかしくも赤い紅絹《もみ》の切れの袋でした。
拾いあげてかいでみると、におうのです! におうのです! ぷーんとなやましいはだのにおいが、否、紛れもないおしろいの移り香がするのです。――同時でした。
「まさしく女だッ。飛んだお忘れものよ。含み針を入れてあった袋だぜ。ね、おい、伝あにい。下手人は女と決まったぞ」
「そ、そう、そうですよ。そうなんですよ」
聞いて口をさしはさんだのは、伝六ならぬあの三下奴でした。
「おっしゃるとおり、たしかに女ですよ。やさしい声で、この木戸口のあたりから、もうし親分、あのもし親分さんえ、と、こんなに呼びましたんでね。ひょっくりとうちの親分がこの縁側まで出ていったと思ったら、ぱたりとのけぞ
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