話のその大根河岸なるさかさねこ伝兵衛のひと構えです。
「しッ。静かに! 静かに! 口を割らしてこのねぐらのありかを吐かしたな、おいらのてがらなんだ。これから先ゃ、伝六様がおおいばりなんだからね、そんなにとんとん足音をさせりゃ聞こえるじゃござんせんか。いずれ、数珠つなぎにしてこかし込んであるへやは、どこかうちの奥のほうにちげえねえからね、こっそりと庭先へ回ってみましょうよ」
 じつにいい気な男でした。少しばかりのてがらに得々として、名人右門をしかりしかり、息をころして内庭へ回りながら、子分べやらしいひと間の障子をそっとのぞいてみると、なるほどいるのです。すべてでは十四人。その十四人の駕籠かきどもが、ひとり残らず厳重なさるぐつわをかまされて、高手小手にくくされながら、まるで芋虫のようにごろごろと投げ込まれてあるのでした。
「ちくしょうめッ。ねこ伝の野郎、ふてえまねをしやがったね。べらべらしゃべられちゃならねえというんで、さるぐつわをかましておいたにちげえねんだ。ね! だんな! いいでやしょうね? なにもあっしがだんなをそでにするってえわけじゃねえんだが、あの三下奴を抱きこんでどろを吐かせたからこそ、ぞうさなくネタが上がることにもなったんだからね。このてがらの半分は、伝六様もおすそ分けにあずかりてえんだ。野郎どもはあっしが締めあげますぜ」
「いいとも、やってみな」
 ぱっとおどり入ったそのけはいを聞きつけたとみえて、ばらばらと奥のへやから駆けだしながら行く手をさえぎったのは、七、八人の子分どもです。
「ひょっとこみてえな野郎が来やがったなッ。どこのどやつだ! 名を名のれッ。どこから迷ってきやがったんだッ」
「なんだと! やい! ひょっとこみてえな野郎たアだれにいうんだッ。どなたさまにおっしゃるんだッ。つらで啖呵《たんか》をきるんじゃねえ! この十手が啖呵をおきりあそばすんだ。あれを見ろッ、あそこの格子窓《こうしまど》の向こうからのぞいていらっしゃるだんなの顔をみろッ。音に名だけえむっつり右門のだんなは、ああいうこくのあるお顔をしていらっしゃるんだッ。ひょっとこなぞとぬかしゃがって、気をつけろい! 一の子分の伝六様たアおいらだよ!」
「…………」
「…………」
 十手も啖呵《たんか》もものをいったのではないが、われこそその一の子分と巻き舌でぱんぱんと名のったむっつり右門の名
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