!」
わめきたてながら、はしなくもそこに震えているなぞの小娘たちふたりを発見すると、こづきまわさんばかりにしながら、がみがみとののしりました。
「おまえじゃ! おまえたちじゃ! たしかに、下手人はおまえたちであろう! きのうの夕がたうちの前をうろうろしていた様子がうさんじゃと思うていたが、きっと夜中に忍び込んで盗み出したのじゃ! さ! 白状しませい! せねば、こうしまするぞ!」
女の身にあられもなくののしりわめきながら、新造のひとりが力まかせに小娘の手を取ってつねろうとしたのを、
「やい! 何しゃがるんだ、なんで手荒なまねしゃがるんだ」
ついと横からしゃきり出て、景気のいい啖呵《たんか》をきりながら、身をもって小娘をかばったのは、江戸っ子中の江戸っ子をもって任ずる伝あにいです。
「だれに断わって、ふざけたまねしゃがるんだ。よしんばこの小娘が子ぬすっとの下手人であろうと、うぬらにかってな吟味|折檻《せっかん》させてたまるけえ。それがために、こうやって、できのいいおらがのだんなが、わざわざとお出ましになっているんじゃねえか。てめえの子どもを盗まれても知らねえような唐変木が出すぎたまねしやがると、この伝六様が承知しねえぞ」
「…………※[#疑問符感嘆符、1−8−77]」
「何をぱちくりやってるんだ。無傷で赤ん坊が手にけえりゃ文句はねえはずだから、とっとと抱いてうしゃがれッ[#「うしゃがれッ」は底本では「うしやがれッ」]。まごまごしてりゃ、おらがはあんまりじょうずじゃねえが、だんなの草香流はききがいいぞ」
ぱんぱんとかみつくようなすさまじいけんまくに、肝をつぶしたのは子をとられたふたりの新造たちでした。あわてふためきながら、それぞれひとりずつ抱きあげてそうそうに帰っていったのを、名人は微笑とともに見送りながらことばを和らげると、やさしく小娘にききました。
「あのとおり、みんなが騒いでじゃ。おじさんはけっしてしかりませぬゆえ、はよう何もかもいうてみい」
「…………」
「のう! なぜいわぬのじゃ。どうしてまた、よその赤ちゃんなぞをふたりも盗み出して、こんなところに捨てたのじゃ。――いうてみい! のう! はよう心配ごとをいうてみい!」
しかし、なぞの小娘は何も答えないのです。答えないで、じわりと大きなしずくをほうりおとすと、やにわに何を思いたったか、そこに残されていたあのかぼそくやせ衰えている女の子をひしと抱きしめるように取りあげながら、おどおどと恐れおののいている小さな弟を従えて、物のけにつかれでもしているかのごとく、ふらふらと表のほうに歩きだしました。しかも、同じように黙って、ただ泣きなきずんずんと通りを右に折れながら曲がっていったので、ことごとく首をひねったのは伝あにいでした。
「はあてね。まさかに、唖《おし》じゃねえでしょうね」
「…………」
「え? だんな! どうしたんでしょうね。唖なら耳が聞こえねえはずだが、こっちのいうことはちゃんと通じているんだ。通じているのにものをいわねえとは、いったいどうしたんですかね。え? ちょいと!」
「…………」
「やりきれねえな。気味わるくおちついていねえで、なんとかおっしゃいませよ。下手人はこの小娘にちげえねえんだ。さっき目色を変えて飛び込んできやがったご新造たちの口うらから察してみても、あのふたりの太った赤ん坊を盗み出して捨て子にしたのは、たしかにこの小娘にちげえねえんですよ。ね! ちょっと! 黙ってちゃわからねえんだ。黙ってたんじゃ何もわからねえんだから、なんとかおっしゃいませよ」
しかし、名人はなにごとか早くも看破せるもののごとく、黙々としてただ微笑しながら、小娘の行くほうへ行くほうへと、静かにそのあとを追いました。小娘もまた、あとをつけてきてくれたら、すべての秘密となぞが解けるといわぬばかりに、みどり子をひしと抱きながら、泣きなき歩きつづけました。――十軒店《じゅっけんだな》を左に折れて俗称願人坊主の小路といわれた伝右衛門《でんえもん》横町、その横町の狭い路地をどんどん奥へはいっていくと、奇怪です。不思議な小娘は、しめなわをものものしげに張りめぐらしたそこの右側の扶桑教《ふそうきょう》祈祷所《きとうしょ》と見える一軒へ、主従ふたりを誘うかのごとくにおどおどとはいりました。同時に、伝六が息ばりながら十手を斜《しゃ》に構えとって、たちまち音をあげたのは当然でした。
「ちくしょうッ、気味のわりいところへ連れてくりゃがったね。扶桑教といや、ちんちんもがもがの行者じゃねえですか。べらぼうめ、もったいらしくしめなわなんぞ張りめぐらしゃがって、きっと子ぬすっとのにせ行者にちげえねえんだ。さ! 出てみせろ。ただじゃおかねえんだから、出てみせろッ」
「あわてるな! がんがんと声をたてて、逃げう
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