さしく男でした。しかるに、これが少しおかしいのです。十中十まで捨て子をするには、それが長い昔からのお定まりであるかのごとく、あとあとへの目印と証拠になるべきお守り札に、少なくも着替えの一、二枚は必ず添えてあるのが普通なのに、どうしたことか、いぶかしいその捨て子には、いっこうにそれらしい品が見当たらないのでした。のみならず、子どもそのものにも不思議な相違が見えました。左に寝かされている男の子のほうは、まるまると肥だちもよくて、ずきんから着物にいたるまでひと目に裕福な良家の生まれらしい節々が見えましたが、右に寝かされている女の子のほうは見るからにやせ細って、そのうえに着物も継ぎはぎだらけの洗いざらしなのです。
 ――せつな! 名人の目がきらりと光るや、同時にさえまさった声があいきょう者のところへ飛びました。
「抱いているその子も、いっしょに並べてみい!」
「え……?」
「おまえの抱いている赤ん坊も、そこへもういっぺん寝かせといってるんだよ」
「情なしだな。せっかく拾ったものを、また捨てるんですかい」
「文句をいうな。早くしたらいいじゃねえかよ」
「へいへい。お悪うござんした。並べましたよ。さあ、並べましたからね。お気のすむようになさいませよ。どうせ、あっしはいろいろと文句をいう変な野郎なんだからね。ええ、そうですとも」
「…………」
「ええ、ええ、どうせそうですよ。どうせあっしなんざあ人前でがみがみとしかられるようにできた野郎なんだからね。もっとしかりゃいいんだ。出世まえの男を人前でしかるのがりっぱなことなら、もっとしかりゃいいんですよ。――おやッ。はあてね。少し変だな。こうして並べてみると、三人の様子がおかしいじゃござんせんかい。いま捨てた子も、左の赤ん坊も、男の子はみんなまるまる太っていかにも金満家のぼっちゃまらしいが、それにひきかえまんなかの女の子ばかりは、やけに貧乏ったらしいじゃござんせんか。ね! ちょいと! どうしたんだろうね」
 すねながら見比べているうちに、血のめぐりの大まかなあいきょう者もそのことがいぶかしく思われたとみえて、必死と首をひねりだしました。まことに、これは不審といわざるをえない。まんなかのやせ細った貧しげな赤ん坊から推断すると、世のつねの捨て子のごとく貧ゆえに育てかねて捨てたらしく思われるが、それにしては右と左のまるまる肥え太ったふたりの子
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