おかたうぬ自身だろう。どうだッ。まさかに眼が狂っちゃいめえがなッ」
「お、恐れ入りました。それまでおにらみがおつきでは、もう隠しだていたしませぬ。いかにも、水いたずらはてまえのしわざにござります」
「油っこいまねするにもほどがあらあ。なんでまた、てめえでてめえの座敷に水まきしたんだ。涼み水なら、まきどころが違うようだぜ」
「ごもっともさまでござります。なにを隠そう、それもこれも――」
「人気をあおる手品の種かッ」
「へえい。つい、その、いいえ、何を申しますにも江戸下りははじめてでござりますゆえ、知らぬ土地ではごひいきさまへ評判とるのも並みたいていなてだてではいくまいと存じまして、ついその水いたずらをしたのでござります。ああして、だれがいたずらするかわからないようにこっそり水をまき、幽霊水の評判がたったところで、わるいことと知りながら、江戸屋はんにぬれぎぬ着せたうえ人気をひとり占めにしようと計ったのがさいわいと申しますか、うまくあたったのでござります。それゆえ、内心ほくほくしておりましたところ、昨晩――」
「二三春が様子探りにでも忍んでいったと申すかッ」
「へえい。かしこいおなごはんでござります。てまえのしわざとにらんだものか、夜中近いころ、へやの外までこっそり参りましたところを、ついてまえが見つけ出し、さかねじ食わせて言いとがめておりますうちに――」
「よし、わかった。聞くもけがらわしいや。江戸の女のべっぴんぶりに目がくらんで、手ごめにでもしたというのだろう。どうだ、違うかッ」
「なんとも、面目ござりませぬ。かえって水いたずらの罪を二三春さんとやらにぬりつけ、ないしょにしてやるからとおどしつけ、ついその、なにしたのでござります。重々面目ござりませぬ」
「あたりめえだ。人のお囲い者を手ごめにした野郎に、面目やお題目があってたまるけえ。食いちぎられた小指は、そのときの手ごめ代かッ」
「恐れ入ります。なにを申すも人気|稼業《かぎょう》の芸人でござりますゆえ。穏便なお計らいくださりますればしあわせにござります」
「控えろッ、むしのいいにもほどがあらあ。江戸の女は、お囲い者でも操がいのちのうれしい心意気を持っているんだッ。さればこそ、江戸五郎に面目ねえと、恨みの小指を一枚刷り絵に供えておいて、ゆかしい死に方までしているんだッ。そのうえ、あくどい水いたずらまでもやった者を、どこ
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