――だが、それにしても、この精霊だなはちっと小さすぎるかな」
 骨組みだけできたのを見ると、なるほど少しちいさい。どうひいきめに見ても、たなの大きさは四寸四角ぐらいしかないのです。
「かまわねえや。どうせおめえとおれとは水入らずの仲なんだからな。さだめし窮屈だろうが、がまんしねえよ。お盆がすぎりゃまた極楽さけえって、はすのうてなでぜいたくができるんだからな。――ほうれみろ、こう見えてもなかなか器用じゃねえか。この麻幹馬《おがらうま》だっても、でき合いじゃ売ってねえんだぞ。特別おめえはちっちぇえから、馬も乗りここちがいいように、かげんしてちっちゃくこしれえてやるんだ。持つべきものは兄貴なり、あした来がけに地獄のそばも通ることだろうから、おえんま様にちょっくらことづてしてきなよ。しゃばには伝六っていういい兄貴があるから、お客にいってめえりますとな。いい兄貴というところを、特別にでけえ声でいってきなよ――」
「もしえ……」
「…………※[#疑問符感嘆符、1−8−77]」
「あの、もしえ。だんな」
「ゲエッ。ちくしょうッ。おどすじゃねえか! わ、わりゃ、だれだ! だれだ!」
 精霊だなをこしらえながら、いいこころもちになってあの世の辰《たつ》と話をしているさいちゅう、どこから忍び込んで、いつのまに庭先までもはいってきたのか、不意にしょんぼりと目の前に立ちふさがりながら、いきなり「もしえ」と、あの世の人のような力のない声で呼びかけたので、愛すべきわが伝六はおもわずぎょッとなりながら、鳥はだたちました。いや、不意だったのにおどろいたばかりではない。影ばかりの人のようにしょんぼりとしていたその姿に、おどろいたばかりでもない。力のないその声にぎょッとなったばかりでもない。いかにも、その男が小さいのです。さながら善光寺辰の再来ではないかと思えるほどに小さいのです。――伝六は、背に水をでも浴びせかけられたようにぞっとなりながら、ふるえ声できめつけました。
「ま、まさかにおめえは、辰じゃあるめえな。た、辰ならまだ出てくるにゃちっとはええぞ。――ど、どこのどいつだ。な、なに用があって来たんだ」
「…………」
「返事をしろ。な、なにを気味わるく黙ってるんだ。むしのすかねえ野郎だな。返事をしろ。な、なんとかものをいってみろ」
「…………」
「耳ゃねえのか。気、気味のわりい野郎だな。なんだって人
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