りわからないのでございます」
「でも、これを売るからには、卸に参った者があるだろう。そいつがだれかわからぬか!」
「ところが、肝心のそれからしてが少々おかしいのでございます。おばあさんの人が来たり、若い弟子《でし》のような男が来たり、雛のできしだい持ち込んでくる使いがちがうんですよ」
「しかとさようか!」
「お疑いならば、ほかの九軒をもお調べくださいまし。同じようにして持ち込み、同じようにみな売れているはずでございますから、それがなによりの証拠でございます」
 たしかめに出かけようとしたところへ、たまには伝六も血のめぐりのいいときがあるから、なかなか妙です。
「おてがら、おてがら。どうもちっと変じゃござんせんか」
「なんでえ。じゃ、きさま、先回りして九軒をもう洗ってきたのか」
「悪いですかい」
「たまに気がきいたかと思って、いばっていやがらあ。どんな様子だ」
「やっぱり、九軒とも、気味のわるいほど古島雛のまがい雛が売れているんですぜ」
「それっきりか」
「どうつかまつりまして。これから先が大てがらなんだから、お聞きなせえまし。その作り手の人形師がね――」
「わかったのかい」
「いいえ、それがちっともだれだかわからねえんですよ。そのうえ、売り込みに来た使いがね、手品でも使うんじゃねえかと思うほど、来るたんびに違うというんだから、どうしても少し変ですぜ」
 ほかの九軒もやはり同様、人形師も不明なら、使者もまた人が違うというのです。なぞはその一点、――つとめて正体を隠そうとした節々のあるところこそ、まさに秘密を解くべき銀のかぎに相違ないはずでした。
「なかなか味をやりやがるな。そうするてえと――」
 あごの下にあの手をまわして、そろりそろりと散歩をさせていましたが、まったく不意でした。
「なんでえ。そうか。アッハハハ」
 やにわに、途方もなく大声でカンカラ笑いだすと、伝六を驚かしていいました。
「たわいがねえや。だから、おれゃべっぴんというやつが気に食わねえよ」
「え……?」
「目の毒になるだけで、人を迷わすばかりだから、べっぴんというやつあ気に入らねえといってるんだ」
「なんです! なんです! 悪口にことを欠いて、おらがひいきのべっぴんをあしざまにいうたあ、何がなんです! だんなにゃ目の毒かもしれねえが、この伝六様にはきいてもうれしい気付け薬なんだ。ひいきのべっぴんをか
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