んとくろうと筋の間に乱用されたものなので、すなわちさいころの中をくりぬいてまず金粉を仕込み、もちろん仕掛けのコロですから容易に看破できないように巧みにこしらえ、しかるのち五なら五と、ある限った一つの目の下になっているかどに、小さく目だたない穴をこしらえておいて、ガラガラポーンと茶わんかなぞで伏せながら、コロをかきまわしているうちに、もしも五の目が上になって仕掛けのかどの穴が下にならば、当然その穴から仕込みの金粉が盆の上とかござの上に、ちかちかと漏れる道理ですから、それが見えればつけ目張り目、賭《か》けた、三二六さあ張っちょくれッ、胴は五の目だ、半目だぞッ、――というかいわないか、それまでは詳しく詮索《せんさく》する必要がないにしても、とにかくそのさいころは右のごときいんちきばくちのいかさま師くろうと筋のみが使用して、悪銭をせしめようとするふらちな道具なのです。
「ほら、みろよ。こいつあ二の目に細工がしてあるとみえて、下からちかちかと金粉が漏れるじゃねえか。気違いや十だの六つだのの子どもが、こんなくろっぽい品を所持しているはずはねえんだ。おそらくは、この家に出入りのやつか、でなきゃ、血筋でも引いたやつが置き忘れていったか、子どもにねだられてくれたものか、どっちにしてもただものじゃねえんだから、これに目をつけたとて何が不思議かい。そっちの玉ころがしの玉にしたってそうじゃねえか。赤や黄のきれいな色がついているから、子どもはたいせつなおもちゃだと思ってしまっておいたかもしれねえが、どいつがどうしてこんな品をくれたか、それも眼《がん》のつけめなんだ。このうちの家族の様子を探りゃ、おおかた目鼻もつこうというもんだから、とち狂っていずと、はよういってきな」
「ちげえねえ! ちげえねえ! べらぼうめ! ざまあみろい! ええと――、さてな、どこで洗ってきたものかな」
まごまごしながら表へ駆けだしていった様子でしたが、ほど経て帰ってくると、
「変ですぜ! 変ですぜ! 町名主から聞き出してきたんですがね、ちっとこのうちは変ですぜ!」
うろたえて報告しようとしたのを、押えてずばりと右門流でした。
「変だというのは、たぶんあの子どもの親たちのことだろう。父親も母親もそろって去年の十二月十二日に死んだといやしなかったか」
「そうです! そうです! そのとおりなんだが、気味がわるいね、どうしてまたそいつをご存じですかい」
「また始めやがった。あの新しい位牌《いはい》の裏に、十二月十二日没と書いてあるじゃねえか。それもおそらく変死だろう」
「そうなんだ、そうなんだ。夫婦そろって首をくくったというんですよ。なんでも、ご先祖代代日本橋のほうでね、手広くかつおぶし問屋をやっていたんだそうなが、なんのたたりか、代代キ印の絶えねえ脳病もちの血統があるというんですよ。だから、それをたぶん気に病みでもしたとみえて、去年の十二月店をたたんでここへひっこすそうそう、いやじゃありませんか、ちょうどこの辺ですよ、今だんなのいらっしゃるあたりだというんですがね、跡取りの長男夫婦が急にふらふらと変な気になって、その鴨居《かもい》からぶらりとやったというんですよ」
「へへえ、この鴨居かい。おおかたそんなことだろうと思ったよ。夫婦ふたりが同じ日に仏となるなんて、そうざらにあるこっちゃねえからな、するてえと、さっきの気違いは、ぶらりとやった長男の兄弟なのかい」
「そうです、そうです。三人めの、つまり一番末のむすこだというんですがね。だから、あのかわいそうな子どもたちにゃ、気は狂っていても正銘の叔父貴《おじき》だというんですよ」
「というと、死んだ兄貴とあの気違いのまんなかにまだひとりあるはずだが、もしやそいつが、さきほどちらりと姿を見せたあの落としまゆの女じゃねえか」
「ホシ! ホシ! そのとおりですよ。どこかなんでも下町のほうへね、お嫁にいっている娘なんだそうですよ」
「よし、わかった。それで兄弟の人別調べははっきりしたが、もうひとりだいじな人があるだろう。年寄りのはずだが、聞かなかったか」
「気味がわるいな。あるんですよ、あるんですよ、おばあさんだそうながね、どうしてまたそれをご存じですかい」
「いちいちとうるせえな。あそこに水晶の数珠があるじゃねえか。年寄りででもなくちゃ、数珠いじりはしねえよ。するてえと――な、大将!」
「え……?」
「おめえ、変なことが一つあるが、気がついているかい」
「はてな……」
「しようがねえな。いねえじゃねえか! いるべきはずの、そのおばあさんがいねえじゃねえか! な! おい! 伝六ッ。どうだ! どうだ! 不思議に思わねえか!」
「ちげえねえ! さあ、事がややこしくなってきたぞ! だいじな孫が三人も殺されているのに姿を見せねえたア、ばばあめが下手人かも
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