またがって、小姓の采女一騎をうしろに従えながら、お微行《しのび》で三丁の駕籠のあとを追いました。
駆けつけた時は九ツ下がり。
目ざした隠し屯所は、一見ただの町家のごとくに見られましたが、しかし一歩その中へはいれば設備はいたれりつくせりで、土蔵と見せかけて、その実|不審牢《ふしんろう》につくられたその土蔵の中に、厳重な警固と見張りをうけながら、問題の生駒家浪人権藤四郎五郎左衛門は、なるほど中間ふうに化けながら、不敵にもぐうぐうと高いびきかいて眠りをむさぼっているさいちゅうでした。
「ふうむ、あやつか。思いのほかの豪胆者とみゆるな」
唯一の証拠にと、携え持ってきたあの千柿鍔の一刀をこわきにしながら、名人はゆうぜんとはいっていくと、
「起きろ!」
パッとそのまくらをけって、ずばりといいました。
「長え名のお客仁! おひざもとで味なまねしやがったなッ」
「えッ――」
「驚くにゃまだはええや、讃岐《さぬき》でもちったァ名を聞いたろう! おれが、むっつりとあだ名の右門だッ。名を名のりゃ、もういうことはあるまい! ここにおれが持っているこのなげえ一刀の千柿鍔と、おぬしが所持のその小わきざしの千柿鍔と、大小二つがぴったり合うこそ、なによりの証拠とホシをさしたら、ほかに責め道具はいらなかろう! どうじゃ、江戸まえの町方衆は、むだをいわねえんだッ。ずんとこのせりふが骨身にしみたか!」
「そうか! きさまが右門とかいう小わっぱか! それならば」
ゆうゆうと帯をしめながら、長い名の四郎五郎左衛門、さすがにおちついたものです。
「千柿鍔に眼をつけたとあらば、じたばたすまい。いかにも古橋専介を討ったはこのおれじゃ。こざかしいあの隠密《おんみつ》めが、いらぬ忠義だてしたため、あったら十七万石に傷がついたゆえ、討ったのじゃ。投げなわの小さなやつも、いらぬすけだちしたゆえ、一つ刀で手にかけたが、この夜ふけに起こして、どうしようというのじゃ」
「誉《ほまれ》のあだ討ちさ! お気に召したか!」
「おもしろい! 権藤四郎五郎左衛門の三品流知らぬとはおもしろい! いかにも相手になろう! 来いッ」
パッとさがって、小わきざしに手をかけたを、名人右門は莞爾《かんじ》としながら余裕しゃくしゃく。
「せくな。せくな」
押えて先へたちながら、雪の表へいざない出すと、なおよく敵をも愛す、感激したいくらいな
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