、この仏といっしょに冥土《めいど》へ参りとうござります……」
「気に入った! 人を殺したなあ気に入らねえが、罪をほろぼしに冥土へいっしょにいきてえたあ、おめえも存外善人かも知れんよ。だが、来世はもっとぶおとこに生まれて来なよ。ろくでもねえやつが、つらばかりりっぱだって、それこそ顔負けがするんだからな――じゃ、伝六あにい! このお葉も当分暗いところで日を送らずばなるまいから、いっしょに早くしょっぴく用意をしなよ」
しかるに、伝六あにいがまた右に左にそろそろと首をひねりかけようとしたものでしたから、押えて名人がずばり。
「わかった! わかった! ひねらなくともわかっているよ。さると聞いて、なぜにまた袈裟切り太夫にホシをつけたか、そいつがふにおちねえというだろうが、だからいわねえこっちゃねえんだ。どろぼうを見てなわをなうんじゃあるめえし、あわてて髪床や朝湯に行くひまがあったら、さるしばいも見ておくもんだせ、見たからこそピンと否やなく眼がくるんだからな、どうだい、これで堪能《たんのう》したかい」
底本:「右門捕物帖(二)」春陽文庫、春陽堂書店
1982(昭和57)年9月15日新装
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