上等なお茶を召し上がってのようだが、宇治のいいところがあったら、一煎《いっせん》いれてくださいな」
4
かくしてゆうゆうと待つほどに、やがて鼻息すさまじく早駕籠で飛んで帰ったのは、伊豆守《いずのかみ》のお下屋敷を洗いにいった千鳴りの伝六です。
「ちくしょうッ。ずぼしだ、ずぼしだッ、井上の金八め、ゆだんのならねえ細工師ですぜ!」
「そうだろう。徒歩供《かちとも》にいったというなぁまっかなうそか!」
「いいえ、いったのはほんとうなんだが、その間に変な小細工しやがったんだから、ゆだんがならねえというんですよ。なんでも九ツ少しまえにね、金八の野郎め、急に腹が痛くなったから休ませてくれといやがって、供べやへさがっていったんでね、急病なら手当をしたらいいんだろうというんで、供頭《ともがしら》が見舞いにいったら、野郎め、どこかへ雲隠れして見えねえっていうんですよ。だから、大騒ぎしてわいわいと捜していたら、九ツよっぽど過ぎた時分に、腹痛のはずの野郎めがぴんぴんしながらひょっくりと表からけえってきたとこういうんだ。察するに、やつめその間に家へ帰って、なにか変なまねしたに相違ござんせんぜ!
前へ
次へ
全49ページ中41ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング