うもなくだいじな品なんだからね。そのおつもりで、よっく見ておくんなせえよ! な! ほら! こういう書きつけなんだがね」
 とつぜん妙なことをいいながら、うやうやしく懐中から取り出してみせたのは、次のように書かれた一封でした。
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「酒肴料《しゅこうりょう》   松平伊豆守家《まつだいらいずのかみけ》」
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「いきなり変なものを出したが、これはなんのお守り札かい」
「ところが、このお守り札が、なんともかとも、うれしくなるほどいわくがあるんだから、たまらねえじゃござんせんか。先ほどからたびたび申しましたように、とかく芸は細かくなくちゃいけねえと思ってね、じつあ今までとらの子のようにかわいがって懐中していたんだが、ときにだんなは、ゆうべ、上さまが、お将軍さまが、松平のお殿さまのお下屋敷へもみじ見物にお成りあそばさったことをご存じでしょうね」
「知っていたらどうしたというんだ」
「そうつっけんどんにおっしゃいますなよ。話は順を追っていかねえとわからねえんだからね。そこで、こちらの井上のだんななんだが、このとおり縦から見ても横から見てもおりっぱなご家人さ
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