いたしましたら、どんな秘密でもお守りくださいますからと、わたしがおすすめ申しまして、お連れしたんでございますよ」
「そうでござんすか。そう聞いては、どのようなお頼みかは存じませんが、あとへは引かれますまい。ようござんす! いかにもお頼まれいたしましょう!」
 凛《りん》としていったことばに、いそいそとして表へ出ていった様子でしたが、まもなくお由のそこへ導いてきた者は、年のころ五十がらみの上品な、だが、どことなく零落の影の濃いご高家ふうな一人のお武家でした。
 こういうときの名人は、いつもそうなんですが、ことばをかけるまえにまず、じいっとはいってきたそのお武家の姿を、底光りする鋭いまなこで、静かに見ながめました。と同時です。まことに右門流のうちの右門流でした。
「いきなり失礼なことを申しますようでござりまするが、作法のご指南あそばしていられますな」
 ずぼしをさされたようにぎょッとうちおどろいたのを軽く押えながら、微笑しいしいいいました。
「いや、お驚きあそばしますにはあたりませぬ、おみ足の運びぐあい、お手のさばき、たしかに今川古流の作法と存じましたが、目違いでござりましたか」
「ご眼力
前へ 次へ
全31ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング