ゃわからねえや。なんだって、こんな人騒がせやったんだ」
「面目ございませぬ。これなる女との道ならぬ不義につい目がくらみ、金のくめんにせっぱ詰まって、ご主人のご印鑑を盗み出し、他へお能面をこっそりと質替えいたしましてござります。お騒がせいたしまして、なんともあいすみませぬ」
「でも、ちと不審じゃな。そなたが金のくめんに困るはよいとして、こちらのご新造はりっぱな分限者の女主人だ。金に困るとは、またどういうわけじゃ」
「いいえ、それがちっとも不審ではござりませぬ。あれなる番頭十兵衛は、先代の甥《おい》でござりまして、口やかましく身代の管理をいたしておりますゆえ、あるはあっても一文たりとままにならぬのでござります」
「そうか。そこで、このおかみさん、十兵衛に罪を着せて、うまいこと追ん出し、あとでほどよくねこばばするつもりから、ろくでもないあんな告げ口したのかい。そうとわかりゃ、先を急がなくちゃならねえが、室井屋という質屋は何町だ」
「表神田でござります」
「じゃ、お由さん、北村のご主人に、そのこと一刻も早く知らせてあげておくんなさい」
お由を走らせておくと、まことに右門流の裁決でした。
「普
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