っている者であっても、ぽうッといくらか気が遠くなるだろうと思われるのに、次から次へと姿を見せる者は、まこと三十二相兼ね備わった粒よりの逸品ばかりでしたので、生来肝のすわっていない伝六がことごとくもう精神に異状を呈して、さすがに小声でしたが、場所がらもわきまえず、たちまちうるさくお株を始めたのはいうまでもないことでした。
「ねえ、だんな! どうです。すっかり世間がほがらかになっちまうじゃござんせんか。これだから、お番所勤めはいくらどじだの、おしゃべり屋だのとしかられましても、なかなかどうして百や二百の目くされ金じゃこのお株は売れねえんですよ。ね、ほらほら、また途方もねえ上玉がご入来あそばしましたぜ。――でも、それにしちゃ、あのおやじめはちっとじじむさすぎるじゃござんせんか。もしかするてえと、もらい子じゃねえのかな。だとすると、これで広い世間にゃ、もらい合わせて跡めを譲ろうってえいうようなもののわかったやつがいねえわけでもねえんだからね、年もころあい、性はこのとおりの毒気なし、ちっと口やかましいのが玉に傷だが、そこをなんとか丸くおさめて、あっしが半口乗るわけにゃめえりますまいかね」
「……
前へ 次へ
全49ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング