です。ただあるものは、比丘尼《びくに》小町うんぬんの妖々《ようよう》たるなぞのみでしたから、名人の秀麗な面がしだいしだいに蒼白《そうはく》の度を加え、烱々たるまなざしが静かに徐々に閉じられて、やがてのことに深い沈吟が始められたのはあたりまえなことでした。
そして、一瞬!
やがて、二瞬!
つづいて、一瞬![#「一瞬!」は底本では「一瞬」]
さらに、二瞬!
ほとんど今までこれほどしんけんに考え沈んだことはあるまいと思われるほどに、黙念と長い間沈吟しつづけていましたが、突如! ――ずばりとさえた声が飛んでいきました。
「伝六ッ」
「ちッ、ありがてえ! 駕籠《かご》ですね! ――ざまアみろい! もうこれが出りゃこっちのものなんだッ。ひとっ走り行ってくるから、お待ちなせえよ!」
「あわてるな! 待てッ」
「えッ?」
「二丁だぜ」
「…………※[#疑問符感嘆符、1−8−77]」
「何をパチクリさせてるんだ」
「だって、またちっともよう変わりのようじゃござんせんか! 二丁たアだれとだれが乗るんですかい」
「きさまとお公卿さまがお召しあそばすんだよ」
「…………※[#疑問符感嘆符、1−8−7
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