んせんか!」
「あわてなくともいいんだよ。あそこの物干しざおにぶらさがっているしろものをよくみろ。源氏のみ旗が、しずくをたらしているじゃねえか。川へもぐってぬれたやつを、いましがた干したばかりにちげえねえんだッ」
まことにいつもながら名人の観察は一分のすきもない理詰めです。高飛びしたものであったら、あとへわざわざ下帯などを洗いすすいで宵干《よいぼ》ししておく酔狂者はないはずでしたので、ちゅうちょなく中へ押し入りました。
しかし、それと同時! ――はいっていった三人の鼻をプンと強く打ったものは、まさしく血のにおいです。
「よッ、異変があるな! 辰ッ。目ぢょうちんを光らしてみろッ」
いわれるまえに、お公卿さまがまっくらなへやの中を折り紙つきの逸品でじっと見透かしていたようでしたが、けたたましく言い叫びました。
「ちょッ。こりゃいけねえや。野郎め、のびちまっているようですぜ」
「女も、いっしょかッ」
「河童だけですよ」
「じゃ、早く火をつけろッ」
照らし出されたのを見ると同時に、名人、伝六のふたりは、したたかにぎょッとなりました。
なんたる奇怪!
なんたる凄惨《せいさん》!
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