ました。
 しかも、その報告がさらに上々吉でした。はね返りながら駆けもどってくると、あいきょう者がわがてがらのごとく遠くから言い叫びました。
「口まねするんじゃねえが、あんまりぞうさなさすぎて、ほんとうにあいそがつきまさあ。およそまぬけの悪党もあるもんじゃござんせんか。あそこの帳場から二丁雇ってきやがって、ここへ待たしておきながらつっ走ったといいますぜ」
「なるほど、まぬけたまねしたもんだな。行く先の眼もついたか」
「大つき、大つき! 河童権《かっぱごん》とかいう水もぐりの達者な船頭でね。ねぐらは蔵前の渡しのすぐと向こうだっていうんですよ」
「いかさま、名からしてそいつが犯人《ほし》にちげえねえや。じゃ、ちょっくら川下のとち狂っている人足どもにそういってきな。式部小町とやらのお嬢さまは、河童が丘を連れてつっ走ったから、もう腹減らしなまねはすんなといってな。だが、おれの名まえは隠しておきなよ。わいわい騒がれると暑っ苦しいからな」
 いうべきときにはずばりと名のり、名のるべからざるところではゆかしく秘めて、まことここらあたりが右門党のうれしくなる江戸まえのきっぷですが、伝六またなかなかちょ
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