小町の屋形がぶくぶくとやりましたんでね、さっそく舟をつけて調べましたら、屋形の底に刀かなんかでくりぬいた穴があるんですよ。おまけに、娘の行くえがまだわからねえというんだから、これじゃあわてるのがあたりまえじゃござんせんか!」
 と、――むっくり起き上がったようでしたが、まことにどうもその尋ね方がじつに右門流でした。
「人足どもあ、みんなとち狂って、川下ばかり捜しているんだろ。だれかひとりぐれえ上へのぼって調べたやつあいねえのかい」
「ちぇッ。お寝ぼけなさいますなよ。墨田の川はいつだって下へ流れているんですよ。聞いただけでもあほらしい。この騒ぎのなかに川上なんぞゆうちょうなまねして捜すとんまがありますものかい? 沈んだものでなきゃ、下へ流されていったに決まってるじゃござんせんか!」
「しようのねえどじばかりだな。だから、おいらは安できの米の虫が好かねえんだ。頭数ばかりそろっていたって、世間ふさぎをするだけじゃねえか。せっかく久しぶりで気保養しようと思ってやって来たのに、ろくろく涼むこともできゃしねえや。ちょっくら知恵箱あけてやるから、ついてきな」
 慧眼《けいがん》すでになにものかの見通
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