すからな。かぎなしでこの錠があけられてなりますものかい」
 不平そうにつぶやきつぶやき、今しめた戸を疑わしげにひっぱったとみえましたが、こはそもなんたる不思議! かぎなしであけられるはずがないといったその戸が、実に奇態に、かぎなしで手もなくガラガラとあいたものでしたから、おどろいたのは京人形のお大尽です。
「こりゃなるほど天狗でござります。いったい、どうしたのでござりましょうな」
「ちっとおれの目玉は値段が高いつもりだが、少しはおどろいたか」
「へえい、もう大驚きでござります。どうしたというのでござりましょうな」
「どうもこうもないよ。値段の安そうなその目をしっかりあけて、敷居のトボソがはまるそこのみぞ穴をよくみろな」
「何か穴に不思議がござりますか! おやッ、はてな。こりゃだんなさま、穴に何かいっぱい詰まっているようでござりまするが、何品でござりましょうな」
「塩豆だよ。塩でまぶしたあの煎《い》り豆さ」
「なるほどね。そういわれてみると、いかさまそれに相違ござんせんが、それにしても、だれがこんなまねをしたのでござりましょうな」
「丁稚の次郎松だよ」
「えッ! でも、せっかくのおことばでござりまするが、ちっとりこうすぎるところはあっても、あいつにかぎって、こんなまねするはずはござんせんよ」
「控えろ。むっつり右門といわれるおれがにらんでから、こうこうと見込みをつけたんだ。不服ならば聞いてやるが、あいつは買い食いする癖があるだろ。どうじゃ。眼が違うか」
「恐れ入りました。そういわれると、そのとおりにござります。ほかに悪いところはござりませぬが、たった一つその癖があいつの傷でござります」
「それみろ。思うにあの晩、そなたとふたりでこの倉へ調べに来たときも、きっとボリボリやっていたに相違ないが、気がつかなかったか」
「さよう……いえ、おことばどおりでござります。そう言われてみますと、いま思い出してござりまするが、たしかに何かもごもごと口を動かしておりましたゆえ、また買い食いをしたのかといってしかった覚えがござります。しかし、それにしても、あの次郎松がまたなんとしようとて、こんなだいそれたまねをしたのでござりましょうな。三千両を持ち出したのもあれでござりまするか」
「あたりめえさ、今どろを吐かせてやるから、はよう連れてこい」
 ずばりと断定を下しましたので、めんくらいながら
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