うちに、だんだんと小判に目がくらみましてな、人さまから因業勘兵衛だの、ごうつく勘兵衛だのと、いろいろ悪口をいわれるのも承知で、ようよう三万両ばかりため上げたところへ、たったひとりの娘がちょうど十八になったのでござります。自分の口からいうは変でござりまするが、その娘の妙《たえ》めが、どうしたことやら、少しばかり器量よしでござりましてな、それゆえ、いくらか人さまの目にもついたのでございましょう。おやじのこのてまえめは、人から因業だの、ごうつくばりだのと、ろくなことはいわれておりませんのに、いざ養子を捜そうとなりましたら、われもおれもと十人ばかりの相手が現われてまいりましてな、競って養子になろうと、手を替え品を替えて話を持ち込んでまいりましたゆえ、つい欲にくらみまして、そんなにだれもかれも養子になりたいならば、持参金の多い者をいただきましょうと、われながら情けないことを一同に言い渡したのでござります。すると、たちまち三百両、五百両、八百両とめいめいがせり上げてまいりましてな、あげくの果てに、同じ両替屋商売のさる次男坊が、とうとう三千両持参金にしようとこのようなことを申してまいりましたゆえ、内心喜んで、さっそくその者を養子に取り決めてしもうたのでござります。ところが、いざ婚礼をしようとなってから、どうしても娘がいやじゃというて聞きませなんだのでな。だんだんその子細を問い正してみると――」
「ほかに契り合うた恋人があったというのじゃな」
「へえい。まだおぼこじゃ、おぼこじゃと思うて、気を許していたうちに、いつのまにか、親の目をかすめまして、それも言いかわした相手がうちの手代の弥吉《やきち》じゃ、とこのようなことを申しましたのでな、腹が立つやら、情けないやらで、むやみとがみがみしかりつけたのでござります。だのに、どうしても娘は弥吉でなくてはいやじゃと申しまして、たとえ十万両持ってこようと、業平《なりひら》のような男であろうと、わたしが二世と契ったは弥吉以外ないゆえ、添わしてくださらなくばいっそ死にまするなぞと、思いつめたらしいことを申しましたので、ついてまえもカッとなりまして、それほど弥吉のようなやつが好きなら、三千両持たして連れてこいといってやったのでござります。すると、だんなさま、どうでござりましょう。そのあくる朝、弥吉めが、どこで才覚いたしましたか、正銘まちがいない小判で
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