のかい。あたりめえだよ。また、やすやす化けられちゃ、こっちがたまらねえからな。ところで、気にかかるなあその桜丸だが、こりゃ百面相ッ、どこへしょっぴいていったんだッ」
「それはその……」
 言いもよっていたとき、とつぜん伝六がけたたましく叫びました。
「ね。だんな、だんな! だれが何を急いでいるのか、御用ぢょうちんをつけた早駕籠が、こっちへ飛んでめえりましたぜ!」
 いううちに、そこへ御用と染めぬいたあかり看板をふりかざしながら、あわただしい駕籠が一丁近づいてまいりましたから、右門が鋭くきき尋ねました。
「ご番所のかたでござるか。それとも、どこぞ自身番のかたでござるか」
「あッ。右門のだんなさまでござりましたか! てまえは吾妻河岸《あづまがし》の自身番を預かっている町役人でござりまするが、こちらの芸人だという妙な娘をひとり拾いましたのでな。なにはともかく、取り急ぎこの見せ物小屋へ駆けつけてきたのでござりまするが、ちっと話が変でござりまするぞ」
「よし、わかった、わかった。名を桜丸といやしねえか」
「へえい。よくご存じでござりまするが、でも、妙なことがござりまするぞ。娘が申したところによる
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