てみただけなんですよ」
変なところへ吹かしばえのしない兄貴風を吹かしながら、それでも先にたって井戸ばたのほうへやっていったようでしたが、まもなくふたりして、よちよちと、手おけに三杯掘り井戸の冷たいところを運んでまいりましたので、何をするかと思われたのに、いつもながらそういうところが、じつに右門流でした。
「さ、望みどおり殺してやるから、ちょっとこっちに首を出しなよ」
いいつつえり髪を捕えて、そこの縁側へひきずっていくやいなや、やにわにじゃあじゃあとくみたての冷やっこいところを、少年の首から頭へ浴びせかけましたものでしたから、まことに春先ののぼせ引き下げにはこれこそ天下一品の適薬です。一杯一杯と浴びるごとに、しだいしだいと心が静まったとみえて、ややしばし少年がきょとんとしていましたが、いよいよいでていよいよ奇怪千万でした。にわかにがらりとうって変わって、神妙に右門の前へ両手をつくと、とつぜん変なことをいいだしました。
「あんまり腹がたちましたゆえ、ついカッとなりまして、前後も知らずにだいそれたまねをいたしましたが、もうお手向かいはいたしませぬゆえ、どうぞだんなさまも、わたしの姉をお返しくださりませ。お願いでござります。お願いでござります。はようお返しなされてくださりませ」
「なに※[#疑問符感嘆符、1−8−77] そなたの姉とな※[#疑問符感嘆符、1−8−77]」
まったくの不意打ちでしたから、いたく右門もめんくらいましたが、しかし少年はおしかぶせるようにいいつづけました。
「おとぼけなさりますな! 先ほどだんなさまお自身がお引っ立てなさったはずではござりませぬか」
「まてまて。やぶからぼうに、妙なことばかり申すが、いったいわしがそなたの姉とやらをどうしたというのじゃ」
「どうしたもこうしたも、ちゃんとだんなさまご自身がよくご存じのはずではござりませぬか」
「ますます奇態なことを申しおるな。まさか、人違いしているのではあるまいな」
「ござりませぬ! ござりませぬ! たしかに、むっつり右門のだんなさまと承知して、すぐさまかように押しかけてまいったのでござります。わたくしの姉にかぎってそんなだいそれたことをいたすわけはござりませぬのに、親方を殺した下手人じゃとおっしゃいまして、つい今のさっきお引っ立てなさいましたとききましたゆえ、返していただきに上がったのでござりま
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