ついていたが、はいってきたのをちゃんと知っていながら、相手の野郎がとても怪力なんで、どうもこうもしようのねえうちに、そろいもそろってふたりとも、左手の親指と人差し指を二本切りとられちまったというんだから、ちっとばかりおかしいじゃござんせんか。それも、厩河岸《うまやがし》のほうは町人だから、相手の怪力に手も足も出なかったとて不思議もありますまいが、小石川の台町のほうは一刀流だかをよく使うりっぱな若侍だっていうんだからね。こいつああっしだっても、どうしたって、だんなの畑だと思うんですがね」
「なるほどな。じゃ、なんだな、相手の野郎は大入道みたいなやつででもあったというんだな」
「ところが大違いですよ。みたところ五尺とねえ小男でね、そのうえ女みたいな優男だったというんだから、ご番所のみなさまがたもその怪力っていうのが不思議だ不思議だとご評定しなさっていらっしゃるんですがね」
「いかさまな。そうするてえと、おれもちっとてつだうかな」
 物静かにいいながら、ではまた、そろそろはなばなしいところをお目にかけるかな、というようにゆうぜんとあごをなでだしたものでしたから、すっかり有頂天になってしまった
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